オペラ歌手がロックを歌う~林正子“Fantasma vol. II”
Sunday, 9. November 2008, 02:43:35

大ヒットしたアニメ映画『崖の上のポニョ』のオープニング・テーマ『海のおかあさん』を歌った林正子。でも公開1か月後のニュースで「「崖の上のポニョ」にもう1つの主題歌があることが判明」 (Ameba News) などという酷い書かれよう。南無。
さて、そのニュースにも触れられているアルバム“Fantasma vol. II”は、クラシック・ロックの名曲をソプラノ歌唱でカバーした4曲を収録している。素晴らしい歌声だし、アレンジも興味深いし、お勧め。でもロックとクラシック音楽の融合って大変だ、とも思った。
収録されているのは以下の4曲。
- Queen - ボヘミアン・ラプソディ Bohemian Rhapsody
- Elton John - 悲しみのバラード Sorry Seems To Be The Hardest Word
- The Beatles - ストロベリー・フィールズ・フォーエバー Strawberry Fields Forever
- Led Zeppelin - 天国への階段 Stairway To Heaven
幕開けは“Bohemian Rhapsody”。のっけから美声が響く。劇場で聴いた主題歌で心が震えたから、ちょうどそれを思い出した。そして中間のロック・パートはマリンバとかも使って盛り上げていく。リード・ギターもバイオリンで表現。原曲は4人の歌を重ねて録音されたパートもここではトロンボーンなどの楽器に支えられながら1人で再現。
第一印象は、曲が持っている美しさが増幅してるということで、これは嬉しい変化。オペラ調ではあるけど仰々しくなくて、すごく上品。逆にちょっと気になったのがリズム感。公式サイトにプロデューサーを務めた立川直樹が寄稿していて、その中でこう書かれている。
クラシックの世界だけで暮らしてきて、僕と会うまでクイーンの存在すら知らなかった彼女がレッド・ツェッペリンの稀代の名曲「天国への階段」をピアノをバックに初めて歌った時、僕は思わず息をのみ、幸福な出会いを神に感謝したのである。
えーと、Queen の曲どころか存在すら知らなかったそうで。年齢は知らないけど、経歴を読む感じでは恐らく30代前半くらい、現在はスイス ジュネーブ在住。何にせよ Queen に触れることはなかったとのことで、やはり幼少の頃からクラシック漬けでそうなるんだろうか。
ディスコ向けのポップスを歌い、ミュージカル女優として声楽の訓練を学び、後にクロスオーバーの旗手として活躍する Sarah Brightman とも、Stratovarius が国のチャートに入るわ、兄は家で Whitesnake みたいなのを聴いてるわ、そもそも10代前半まで R&B ファンであった Tarja Turunen とも、デビュー時からアイドルだと持ち上げられてポップスを歌い、ロック・バンドを結成し、ミュージカル女優に転身してクラシックを歌い始めた本田美奈子とも、全然違うのだ。
というわけで、歌の旋律からはロックやメタルらしさがかなり薄れている。むしろそれが作品の狙いか。そしてソプラノで“oh, baby”と歌う。面白い違和感。
“Sorry Seems To Be The Hardest”、“Strawberry Fields Forever”。その壮麗な歌声で凄く良いなー。“it's so sad, so sad...”と繰り返す心情やサイケデリック調が残る音像だったりとか、そんな(悪い意味ではなく)醜態や毒気は無くなってるので不満を持つ人もいるかも知れないけど、双方とも演奏無しで独唱しても聴き応えがあるだろう素晴らしい歌なので、上手い具合に昇華されていてとても良い。
“Stairway To Heaven”も基本的に原曲をなぞった構成で、ギターではなくピアノがアルペジオを奏し、リコーダーではなく弦楽がハーモニーを奏で……というように楽器が換わっているのに、ところどころで違うコードを入れてなお印象が似た演奏。途中でリコーダーが登場するんだけど、ここのアレンジがケルティック・フォークっぽい印象を大きくする。またライナーノーツを見ると、 アイリッシュかつケルトな匂い
とのことで、やはり狙いどおりみたい。
そんなわけで、重厚で華麗な歌と演奏で楽しめる作品。原曲を知らない人にもお勧めできる。
ただ一つの不満。最後の曲が典型的な例で、特にハード・ロック以降のロックってのはそのダイナミズムの緩急、静と動の揺さぶりが醍醐味の一つだと思う。そしてこのアルバムはストリングス・アンサンブルを基本にピアノなどを加えた編成、つまりオーケストラではないので、壮大な盛り上がりはどうしても欠ける。原曲が持つ爆発を期待する人は物足りなさが残るかも。あるいは構成を含めて編曲し直すとかなら後半の盛り上がりを期待しなかったけど。
それでもロックが持ってる美しさを引き出した作品なので、興味がある人は聴いてみてほしいな。
ちなみにこのアルバムからおよそ1か月後に発表された本田美奈子のアルバム『心を込めて……』に収められた『天国への階段』は、同じく弦楽を基本にしながらドラムスなどを加えてより原曲に近い演奏をバックにソプラノ歌唱でカバーしたバージョンが収録されている。録音は2003年までに終了していた音源らしいけど、そちらもいいので聴いてみて。もっとも『天国への階段』をオーケストラがカバーするという企画自体は過去にあるものだけど。
この作品から2年以上が過ぎ、続編はないのかな。楽しみ。




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