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heartland

I just write as my heart says.

花嫁 第4話

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 子供にもらったキャンディを舐めていると、ぽつぽつとフロントガラスに雨粒が落ちて、ざあっと雨が降り出した。慌ててワイパーをつける。
 あの子供は誰だったのだろう。確かにこのキャンディは僕のではない。子供が差し出したからそのまま受け取っただけだ。断るなら、あのとき何と言って弁明すればよかったのだろう。自分の英語が不自由なのが俄かに歯がゆくなってくる。簡単な会話はできても、少し突っ込んだ話になると僕は突然言葉を失ってしまう。日本語で話していても元来僕は多弁な方ではない。だが、ここでは話さなければ通じない。自分の英語が不自由なことと、自分の寡黙な性分が二重に自分の障害となっている。がりっと音を立ててキャンディをかじると砂糖の粉が上唇に張り付いた。パッケージを見ると「スイカ味」と書いてあった。道理で水っぽいわけだ。
 車を入れているとミシェルが家から出てきた。
「今、帰ってきたのか」
「うん、特に予定もないし。今晩はラグビーの試合があるから、どこかのパブに出かけようと思って。その前に家のことをしておかないといけないしね」
「俺の家に来ればいいのに」
「だめだよ、ミシェルの家に行くと飲んでばかりでラグビーどころじゃなくなるからね。この前は二人で何本飲んだ?」
ステインラガーが十五本空になった。
「おかげで翌日、試合の結果が思い出せなかったよ」
ミシェルの後ろから十五、六歳の男の子が一人出てきた。親戚の子だろうか。あまり似ていない。ミシェルは濃いブラウンの髪をしていて肌も浅黒いが、後ろの男の子はとうもろこしのような乾いた黄色の髪をして赤みがかった白い肌をしている。
「誰だい?」
「ああ、ユーリだよ。知り合いの子供なんだ。ユーリ、挨拶をして」
「こんにちは。アキラです」
僕が手を差し出すと、その子は口の中で自分の名前を呟きながら真っ赤になって手を握り返してきた。
「きれいな名前だね」
「ユーリの名前を聞くと日本人はみんなそう言う。どうしてだい?」
「ユーリの名前は日本語では花の百合と音が似ているんだよ」
「ああ、それで」
車の後ろに回って荷物を出す。ユーリが寄ってきて手伝おうかと言ってきた。牛乳が入った重いダンボールは僕が運んだ。ミシェルは所在なげに煙草を吸い始める。
「そうそう。ミシェル、お願いがあって」
「何さ」
「洗面台が水漏れするんだよ。今度見てくれないか」
「いいさ、いつ行けばいい?」
「急ぎじゃないんだ。今度の土曜はどうかな。土曜ならミシェルも仕事が休みだろう。昼飯作るからその前に来てくれないか。直ったらすぐ一緒に食べよう」
「俺は魚じゃなく牛がいいな。アキラの料理はいつもシーフードばかりで正直食傷気味なんだよ」
女の子みたいだ。ミッシェルはそう言うと大声で笑った。
「牛肉ね。アイフィレのいいのが見つかればタタキにしてあげるよ」
それはいい、とミシェルは自分の口から短くなった煙草を吐き出すと両足でぐりぐり踏みつけた。
「こっちのお願いも聞いてくれないか。実はうちでユーリをしばらく預かることになったんだが、俺も親父も仕事で平日はほとんど家にいないだろう。家にユーリを一人にしておくことはできないし、困ってしまって」
この国では法律で十五歳未満の子供を一人にしておくことはできない。
「それならどうして預かったんだい」
「まぁ、いろいろあってね」
ちっとも悪びれずにミシェルは続ける。
「アキラは一日家にいるだろう。たまに出かけても出かける先は決まってショッピングモールか散歩。夜は俺と親父が家にいるからユーリの面倒はこちらで見られる。もし、アキラが昼間ユーリの面倒を見てくれるのなら、割った鏡も直してやるよ」
「僕をそこまで信用していいの?君たちにとっては僕は『Stranger』だろう?」
「自分で本当にそう思っているのか?」
からからと笑ってミシェルは僕の肩をばんばん音を立てて叩いた。
「もう二月も隣で暮らしているのに?俺はアキラのことならたいてい知っているつもりさ。低脂肪乳が嫌いで毎回きっちりブルートップを三本買ってくることまで知っている。ユーリも低脂肪乳が嫌いなんだ。もうそれでいいと思わないか?」
ああ、話したっけ。僕は家の鍵を開けて段ボールをひとつずつ玄関先に運び入れた。ユーリがまた手伝ってくれる。こちらの牛乳は低脂肪乳がライトブルーのキャップのペットボトル、そうでない無調整乳がブルーのキャップのペットボトルだ。ミシェルの言うとおり、僕はブルートップしか買わない。
「ミシェル、言っていることがよくわからないよ」
「よくわからないって、でもほかにどうしようもないだろう」
「それはそうなんだが…」
「アキラは心配しすぎなんだよ」
段ボールを運び終わったユーリが所在なげに僕の後ろに立っている。
「おいで、ユーリ。家の中を案内するよ」

Lovely 第18話 drawback夏の雨

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